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くろすch

配信者名くろすが送信する日記的、報告的な内容のブログです

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2025/05/15 (Thu)

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痛みに目覚めた朝

2009/06/02 (Tue)

その姉弟は仲が良かった。
小さいころは共に野原をかけめぐり、ときには喧嘩もした。
秘密基地をつくったり一緒に料理したりもした。

しかし、
兄弟姉妹にはよくあることで、月日が流れるにつれて、
喧嘩はおろか、会話することもしなくなった。

二人とも別々の高校そして別々の大学、別々の進路へ進んだ。

姉はIT企業。弟は自営業として株式投資をしていた。
姉は業界の最前線へどんどん進み、早くも若き社長として起業し、
大成功を収めた。
それにとどまることを知らず、ウェブデザイナーとして活躍、
ファションデザイナーとして活躍、さらには自身がファッションモデルとして
デビューし多才な女優として芸能各界にもその名を轟かせた。
弟はよく言えば専業トレーダー。悪く言えば引きこもりとして地道に
生計を立てていた。
ギャンブルに手を染めたり女・酒におぼれたりせず人としてはまっとうだが
地味な人生を歩んでいた。
弟の交友関係はネットでの友人のみ。
大学からこっちずっと一人暮らし。
実家に少しはお金をいれているがほんのごくたまにしか顔を出さない、
そんなポジションに立っていた。

そしてそのほんのごくたま。
姉の誕生日。30歳の誕生日だった。
姉はスターであったが内容は身内だけのホームパーティーというものだった。
小学校時代の姉の同級生には面影もあり弟にもわかった。
弟はやはり見知らぬ人ばかりなので居心地は悪かった。
ここは姉の実家であるとともに弟の実家。
もちろん弟の同級生もいるのだが、正確にはいたのだ。
ここに残っている同級生は皆無だった。
皆地方に進出しているという奇抜な状況であった。

ホームパーティがはじまった。
弟は最初の乾杯だけ合わせてあとは静かに場から離れた。
弟は姉の誕生日を祝っていないのであろうか。
そうではない。
元気があり幸福そうな姉の姿を見ることは何年口を聞いていなくても、
安心したものだ。
それが、家族。
弟は単に人見知りなだけなのだ。

ホームパーティがおわった。
姉や両親は友人を送り出し、弟は少しパーティ会場の片付けをはじめた。
姉のおかげで少し豪華になった食器。少し派手になった内装。
少し広くなったリビング。
面影はあるものの実家には姉の匂いがしみこんでいた。

先に両親が帰ってきた。
が、姉の誕生日に感ずるものがあったのか、両親が2人で散歩しに行くと言い出した。
弟は別にとめる理由もない。
そのままパーティーの残り料理をつまみつつ片付けをはじめていた。
少しきれいになったところで姉が帰ってきた。
姉は弟が一人で片付けていたことにお礼を述べつつ片付けをはじめた。
弟も再開した。
一言も口をきかずに行う数年ぶりの、否数十年ぶりの共同作業。

片付けは終わった。
リビングに息をつく二人。
しばしの、だが当然となってしまった沈黙。
はりつめた感じのないそれは心の置き場に迷うものであった。

、ふいに。

姉「株はもうかってる?」
姉が弟に話しかけてきた。
弟「・・・そこそこ」
弟は返した。
姉「ほーそうかー。あたしも起業するときに株をちょこっと学んだけど、
あれで生計立てるなんてきっついと思ったで。あんたすごいなー」
実家では方言が出る姉。
弟「・・・日本のスターになってる姉さんの方がすごいよ」
弟は会話を続けるつもりはないはずだったが、自分にかけられたその方言の
懐かしさ故か返事をしてしまった。
姉「まぁな。すごいやろ?あたしもここまでやれるなんてまったく思ってなかったんやけどねー
最近は芸能人にもよく会ってるんやで!例えばホラ、あー・・ちょっと違うけど
『ていめし』ってアニメあったやろ?その主人公の声優にもあったんやで!」
姉は弟に合わせたのか昔の話題を持ち出してきた。
弟「えっ?あの人まだ声優やってたの?」
さっきと同じくふいをつかれ返答する弟。
姉「まだやってたんよーしかも声の質もそのまま!結構感動したで。
・・・懐かしいなー『ていめし』。TVのチャンネルの取り合いで父さん怒らして
二人そろって家から出されたとかあったなー」
姉は昔の話題を持ち出す。
弟「・・・そうだね」
会話は、途切れた。

否、正確には途切れたわけではなく姉がテーブルを指でたたきはじめ、
姉が黙り込み、弟も黙っただけだ。
リズムをとっているかのようにトントントントンと4回。間をおいてまた4回。
弟は普段ならば姉がやっていようがほかの誰がやっていようが、
意識はしなかった。
しかし弟の脳裏に浮かび上がったのが昔の・・秘密基地のルール。

姉「ここは秘密なんやからあんまり大声だして場所ばれたらあかん。
特に父さんは厳しいからな。だから暗号決めるで」
弟「暗号?」
姉「時計あるやろ?こっちを正面ってして12時な。誰かがそっちの方向に来たときは
その数字の分だけ指でトントンして仲間に教えるんや!なんかかっこいいやろ?」
弟「なんかよくわかんない」
姉「じゃあ練習や!」

その練習段階での姉の大声で秘密基地は秘密じゃなくなった。
けどその後もそのルールはけっこう応用したりしていた。

トントントントントントントントントン
そこに醤油があった。
弟「口で言えばいーやん」
姉はこれがお気に入りのようだった。

秘密基地のルールに従えば・・・4時の方角に何かがある。
口で言えばいいの・・・か?
何か姉の表情からも違和感を受け取った。
4時の方角には口では言ってはいけない何かがある・・・?

危険

そこに思考がいきついた刹那、弟は窓を開け庭に飛び出した。
さっきまで座っていた場所から4時の方角には外国人らしき風貌の男が1人、
リビングをのぞきこむような体制で顔をこちらに向けた。

弟は近くにあったゴミ箱の蓋をもって詰問しながら歩みよった。

「誰だお前は?なんで覗き込んでる?」

弟は相手がおそらく脱走すると思っていたから
相手を気絶させて捕らえようという腹積もりであった。

男は「oh」と口にするくらいであせりながらやはり逃げる体制に入っていた。
が、その体制には似つかわしくない動作が一つ。
懐に、手を。

ドン!・・・ドン!

拳銃・・・?
実弾。
弾はゴミ箱の蓋を貫通し弟の肌をかすめた。

相手は一体どういう神経をしているのか、続けざまにまた2発打ってきた。

ドンドン!

馬鹿か!覗きくらいでどうして発砲するんだ?
というかなぜ拳銃を所持しているんだ?
さっぱり意味がわからなかった。

姉「逃げて!!」
姉が叫んだ。
弟が相手に立ち向かおうとしているように見えたのか。
実際のところは弟は足がすくんで動けなかっただけであった。

男は声の聞こえた方に顔を向け、拳銃を向けようとした。

弟「やめろっ!」
そう叫んだ弟の姿はなんとも無防備なものだった。
下半身は動いていないにもかかわらず、
上半身は男を抑えようと両手を伸ばしている。
無防備。

ドン!

胃に、熱いものを感じた。
昔海外旅行で食べた緑とうがらしがのどに通って腹に落ちたそのような感覚。
だが、胃の・・・厳密に言えば上部?
心臓・・・?

男は逃走した。

姉が弟に駆け寄る。

半分なきながらも携帯で110、続けて119をプッシュする。

「あ・・あ・・ま、待っててな!すぐ!すぐ助け来るからな!」

弟は平穏な人生を送っていた。
悪く言えば引きこもり。
でも生死という点においては買い物をするときの交通事故・流行病以外
まったく生命の危機というものが存在しない、そんな生活だった。
まさか姉よりも先に、両親よりも先に、30歳になる前に、
生死の境をさまようことになるとは思っていなかった。
そんなことになるとは思って・・・いなかったのだ・・・



という夢を見た。
なにこれ。自分シスコンだったんか・・・?
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